おはようの、その次の一言

人は、変わろうと決めた日に変わるのではないらしい。

何度も決めた。

もっと自分のことを話そう。
思ったことを、ちゃんと言おう。
人に合わせる前に、自分がどうしたいかを考えよう。

決めた翌朝も、何も変わらなかった。

いつも通り挨拶をした。
聞かれたことに答えた。
相手が必要としている言葉を選んだ。

昨日の決意は、鞄の奥で折れた紙のようになっていた。

それから、しばらく経った。

ある朝、同僚に「おはよう」と言った。

相手も「おはよう」と返した。

いつもなら、そこで会話は終わる。

その日は、もう一言が出た。

昨日見たもののこと。
まだ仕事とは呼べない、小さな気づきのこと。

言ってから、少し驚いた。

準備していなかった。
勇気を出したつもりもなかった。

相手は、そうなんですね、と答えた。

世界は何も変わらなかった。

窓から入る光も。
机の上の書類も。
始業を知らせる時計の数字も。

ただ、「おはよう」のあとに、
自分から置いた言葉が一つあった。

変わったことには、いつも少し遅れて気づく。

あの日々があったから言えたのだと、
ずっと後になってからわかる。

人が変わる音は、たぶん小さい。

大きな宣言ではなく、
昨日まで言わなかった一言が、
朝の会話に混じるくらいの音だ。

明日も言えるかは、わからない。

それでも、その朝は言えた。

おはようの、その次の一言を。

おはようの、その次の一言—静川朔