
花の輪郭から、黄緑色がはみ出していた。
小学校の図工の時間だった。
みんなが、赤い花を赤く塗っていた。
葉は緑で、空は青だった。
隣の子だけが、花を黄緑色に塗っていた。
それだけなら、まだよかった。
色は黒い線を越えて、花の外まで伸びていた。
画用紙の白いところを、何かを探すように走っていた。
先生が足を止めた。
「少し、はみ出しているね」
やさしい声だった。
怒ってはいなかった。
直したほうがいい、とも言わなかった。
でも、その子の手は止まった。
黄緑色の色鉛筆を持ったまま、線の外を見ていた。
消しゴムでは消えない色だった。
上から白を塗ることもできなかった。
教室のあちこちで、色鉛筆の音がしていた。
赤。青。緑。
きれいに区切られた色が、決められた場所を埋めていた。
その子の画用紙にだけ、戻れなくなった黄緑色があった。
きれいだと思った。
花よりも。
線の中に収まった色よりも。
どこに行くのかわからないまま伸びている、その色が。
「そこ、好きだよ」
そう言うと、その子は顔を上げた。
笑わなかった。
ありがとうとも言わなかった。
ただ、もう一度、色鉛筆を動かした。
黄緑色は、さらに遠くまで伸びた。
大人になってから、何度も思い出す。
誰かの線からはみ出したものを見つけたとき。
うまく説明できないものに出会ったとき。
直したほうがいい、と言いそうになったとき。
あの色は、間違っていたのだろうか。
たぶん、間違っていてもよかった。
線の外には、まだ名前のない場所があった。
あの子はそこへ、先に色を置いただけだった。
はみ出した黄緑色—静川朔