
気づいたときには、もういた。
不安は、家賃も払わずに、胸の奥へ住みついていた。
小さい頃は、追い出そうとした。
何も起きていないのに落ち着かなかった。
誰かの声が少し低くなると、自分のせいだと思った。
部屋の空気が変わる前に、理由を探した。
そのうち、不安を役に立てる方法を覚えた。
問題が起きる前に見つける。
足りないものを先に埋める。
誰かが困る前に動く。
頼りになる、と言われた。
言われるたびに、不安には新しい仕事が与えられた。
何かを解決している間は、静かだった。
終わると、次の問題を探した。
何もない午後が、一番怖かった。
休んでいても、
この時間で何かできたのでは、と考えた。
本を読めば、何の役に立つかを探した。
散歩をすれば、歩数を数えた。
無駄な時間を過ごすことが、うまくできなかった。
不安を追い出したかった。
でも、不安がいなくなったら、
自分まで空っぽになる気がした。
長く一緒にいすぎたのだと思う。
いま、不安は部屋の隅にいる。
消えたわけではない。
こちらを見ている。
朝、目が覚めると、まだいる日がある。
そんな日は、おはよう、と言ってみる。
好きになったわけではない。
ここにいていいと、許せたわけでもない。
ただ、追い出すことだけを、少し休んでいる。
同じ部屋で、
何も解決しない朝を過ごしてみる。
まだ、うまくできない。
うまくできないまま、今日も一緒にいる。
不安の住所—静川朔